社会的なパグ

フェミニストなのに広告会社にいる。迷いながら生きています。

忘れらんねえよの「これから」前夜に、今更「犬にしてくれ」の感想

このブログのタイトルは「犬にしてくれ」ですが、これは忘れらんねえよの曲のタイトルから取っています。
わたしは犬がすきだし忘れらんねえよがすきなんです。
新しいアルバムが明日出るというこのタイミングで前作のアルバムについてぐだぐだ書いて行こうと思うのですが、要はこのタイミングで聴き返してたらすごく良かったと改めて思った、という話です。

初めて「犬にしてくれ」を聴いたのは2015年のアラバキでした。
その時はラブ人間の人とかと一緒に忘れらんねえよフィルハーモニー交響楽団として出演していて、忘れらんねえよの歌をアコースティックな感じで歌ってたんです。
時間もちょうど夕暮れ時で、ちょっとセンチメンタルな雰囲気で。
柴田さんが「好きな人が結婚しちゃったんだ」という話をしました。
好きな人が自分じゃない人と結婚して、どうしようもなくやるせない気持ち、みんなも経験あると思うし、これから経験する人もいるかもしれないんだけど、そういう時のソリューションとして、この曲を作りました。
そんな感じの話をしました。
「ソリューション」という言葉を使うあたりに柴田さんに潜む業界感を感じ取りましたが、そんな邪念を吹き飛ばして余りあるくらい、いい歌なんだこれが!!!

要約すると、すきな女の子が結婚してしまって、もう自分はその子の彼氏にも旦那さんにもなれないから、このどうしようもない気持ちを昇華するソリューションとして、自分をその子の家の犬にしてくれ、っていう歌なんです。

で、飼い犬になって、どういう風にして過ごすかというと…

犬になって 君の涙 舐めたいんだよ

犬になって 君の布団に 入りたいよ

 これって、恋人でも家族でも入らない領域だと思うのです。
(恋人の涙を舐める人も同じ掛布団で寝る人も割といるとは思うのですが、それでも)
犬になって、この歌の彼がしたいのは、実は旦那さんになる男より心の近い位置に行くことという、謙虚な振りしてすごいところを突いてくるのです。

わたしのこの歌の印象は初めて聴いた時から今日に至るまで一貫して「エロい歌だ」というものなのですが、なんていうか…なんか、エロくないですか?

犬には何でも話せますし、犬に隠しごとなんてしません。旦那さんと喧嘩して一人で泣いていたことも、お風呂から上がって身体のお手入れをどのようにするかも、寝ている時の彼女の体温や匂いや癖も、全ては犬になった彼しか知りません。「自分しか知らない彼女の姿」があるというところに、エロさを受信しているのかもしれません。


でも、犬なので踏み込めない部分もあるんです。

あと何日かで君は結婚式を挙げる

僕は犬なんで君を外で待ってる

 このシーン、わたしのイメージでは、チャペルの中では新郎新婦が誓いのキスをしてて、そのチャペルの外で、柴犬がハチ公の如くに女の子を待っているんです。犬には当然結婚式なんて概念はありません。中で何が行われているか知らずに、犬はただただ、飼い主の帰りを待ってお留守番している。犬にとってはスーパーでお買い物するから外で待っててね、って入口に繋がれているのと同じテンションなんです。

でもこの犬は元人間だから、チャペルの中で彼女が自分じゃない男と一生愛し合うと誓って、キスをすることをほんとうは知ってるんです。でも犬だから知らない振りをしている。犬だから何も知らないしわからないと言い張っている。

正面切って自分が振られたことに向き合うのは悲しくて辛くてやっていられないから、もともとすきだという気持ちを無かったことにしてしまおうという、そういう切ない歌なんです。
自分にしか知らない彼女の一面を見たいのも、どう頑張っても彼女の気持ちは自分には向かないけれど、せめて違う形で自分だけの彼女を作りたい、という独占欲とか復讐心なんだろうなと思います。

すきですきでどうしようもないけど、この気持ちをぶつけることができない、その気持ちはわたしにも経験があります。それは恋だけではなくて、人としてすごく素敵でお近づきになりたいとか、いろいろなのですが。
内側にどろどろした気持ちを抱えながらも、でも表面上は笑顔で接点を持っていたい、そういう状況を、すごく綺麗に言い表しているなと思って、そういうところがすごくすきです。いい歌だなぁ。心臓がぎゅっとなります。

話は変わるのですが柴田さんが先日インタビューでこんなことを言っていたんです。

――名曲の定義は、聴いた人全員が“これは私の歌だ”と思って、そういう人があらゆる場所に広がっていくことだと、昔、誰かが言ってました。

ね。ロックンロールに限らず、それが音楽の魔法部分。俺は今すげぇ、そういうところに興味がある。すげぇ音楽のすごさというか……なんか馬鹿みたいなこと言ってるけど(笑)、そういうものに感動したいし、そういうものを作ってみたい。今まで書いてきた歌詞が物語ってるんですけど、やれ“友達のバンドがMステに出た”とか。

 ――ありましたね(笑)。「バンドやろうぜ」。嫉妬も丸出し。

それはそれで必死だったから、すごく美しい表現になってると思うし、何の後悔もない。ベストアルバムのために改めて聴いて、いい歌詞だなーと思う。でも今は、もっと音楽だけを見ていたいし、もっと人間の本質に触れてみたい。いい意味でも悪い意味でも、じじい化してるんですよ。

忘れらんねえよ「音楽以外のことを考えるのが面倒臭くなってきた」柴田隆浩の独走インタビュー | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

  

この定義で言うと「犬にしてくれ」も「バンドやろうぜ」も、わたしにとってすごく名曲なんです。
上記のインタビューでさ、柴田さんがさ、これまでは個人的な想いを書いてて、それはそれで美しい歌詞だったけどこれからはもっと普遍的に人間の本質に触れてみたい、という話をしてるんだけどさ、もう既に忘れらんねえよはわたしにとっての名曲を書いているよ、というのを主張したくて、それでこの文章を書いているし、この前勢いで柴田さんにリプを送ってしまったんですけど笑

 

あいつのバンドがMステに出てるから今夜もテレビを点けられないでいる

 

もちろんわたしにはこんな経験はありません。でも友達がFBでバリバリ働いている姿を投稿したり、結婚しましたってポストしたり、子育て奮闘記を書いていたり、そんな投稿を読むときの気持ちってこの歌と同じだと思うんです。
わたしの同級生はやたら輝かしい人が多くて、アナウンサーを筆頭に、大学院の研究がニュースで取り上げられたりとか、MBA受けてみたりとか、手がけたプロジェクトが話題になったりとか…そんな投稿を見るとこんなしょうもない仕事を淡々とこなしている自分ってなんなんだろうって思います。同じ学校で同じ教育を受けたはずなのに、お天道様や親に申し訳ない気持ちになります。
わたしだってなにかしたい。なにか成し得たいし、そうではなくてもせめて同級生に胸を張って「こんな仕事をしていて、華は無いけどやりがいはあるんだ」と言えるように生きていきたい。

わたしに置き換えるとこんな感じです…笑

 

あいつの投稿が眩しすぎるから素直にいいね!をつけられないでいる

 

さあバンドやろうぜ、さあバンドやろうぜ

柴田さんの呼びかけは、一歩踏み出そうぜ、とわたしの背中も押してくれます。

 

この2曲は「犬にしてくれ」の中のマイベスト2なんですけど。

忘れらんねえよの「これまで」はもう十分わたしの心に響いているんです。
だから本気を出した柴田さんの「これから」を楽しみに、これからも聴き続ける所存であります。