社会的なパグ

フェミニストなのに広告会社にいる。迷いながら生きています。

【広告】日清食品 大坂なおみ

■概要

ターゲット:オールターゲット(twitter民?)
広告契約をしている大坂なおみ選手の活躍を受けてtwitter上で応援。
大坂なおみの流行を取り入れて自分らしいスタイルを作るおしゃれな一面を紹介しつつ、日清自身も日々流行を意識し研究しているという企業姿勢につなげた。

 

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■炎上(?)したポイント

炎上というほど燃えてもいない、良くも悪くもそこまで注目されない投稿だったが、大きくは下記の2点かと考える。

①「女の子はおしゃれが好き」というバイアス

②黒人差別問題の完全スルー

 

大坂なおみはテニスの大会出場に際して黒人差別問題に関するメッセージを発信し続けている。

「スポーツと政治は分けるべき」という声は多い。
昨年の大河ドラマ「いだてん」でも、後半の主人公である田畑政治がスポーツに政治を持ち込み、それが遠いきっかけとなり最終的には失脚する。スポーツと政治はずいぶん前から相性が悪いらしい。

ただしこれは「スポーツを政治に利用する」のが良くないということ。どうしたって政治にはいざこざがつきもので、それに巻き込まれるとめちゃくちゃ迷惑を被るので政治を持ち込むなという話で、スポーツに限ったことでもないだろう。
選手がいち個人として声を挙げることになんら問題はない。わたしは、大坂なおみ自身が、自分の影響力を自覚して、誠実に声を挙げているという印象を受けた。
SNS上でも賛否はあるものの、概ね肯定的に受け取られていたように思う。

そして、今回の日清の広告(というか投稿)が嫌われたのは、大坂なおみが(本人が望むかどうかは別として)「黒人差別問題のオピニオンリーダー」となりつつあるようなタイミングで「大阪なおみって原宿が好きで流行のスタイルを取り入れるおしゃれな女の子なんだって!」と発言したその空気の読めなさにある。

大坂なおみについて触れる、しかもSNS上で話題にする際に黒人差別問題をスルーすることも良くないし(最近では”話題に触れない”ことも批判の的に上がると個人的には思います)、さらに大坂なおみを「おしゃれが好きな女の子」と表現したことでさらに批判された。

大坂なおみがきちんと自分の意見を表明してかっこいい行動をとっているのに、そこをどスルーしておいて「女の子はみんなおしゃれが大好き!」なゴリゴリのジェンダーバイアスの枠に押し込めるんかい、そして今このタイミングで大坂なおみの「おしゃれが好きな女の子らしい一面」とを伝えることで大坂なおみをより好きになってもらえると思ったんかい、消費者もだいぶナメられたもんだな…というのが受け取った側の印象だろう。
最後の「なおみ。」っていうのも「かわいい女の子」感を演出しているつもりなんだろうけど、「こうやっておけばウケるっしょ」と制作側からバカにされている気さえしてくる。

 

■どうすれば良かったのか?

個人的には、確かにモヤっとする表現だけれども、この広告だけを取り上げて「女性差別だ!」というのは少し根拠が弱いような気もする。仮に男性選手と契約したとしても「試合ではこんなにかっこいいのにパンケーキがすきなんだって!カワイイよね!」みたいな的外れの紹介をしたんじゃないかと思う。
日清に限らず、日本の企業は政治的な色がつくのを好まない。大坂なおみの件を通じて、その企業の姿勢こそが大きな問題だと感じている。

ユニ・チャームの「#NoBagforme」プロジェクトは、「生理のタブー視を無くそう」と投げかけるプロジェクトで、生理を入り口にフェミニズムにも切り込んでいるが、こうやって社会を動かそうと呼びかける企業がもっと増えてほしい。
企業に限らず日本人は政治的な発言を嫌う傾向にあると思われているけれども、果たして今も本当にそうだろうか?その結果が”ドキッ!おじさんだらけの高齢内閣”になっているわけで、特にSNSでは「政治に興味を持たなかった結果がいまの有様だ」という風潮があるので、チャレンジしたら好意的に受け取られるのではないかと思う。
(そうやって見ると、「自分のスタイルを持つ」という文言に、黒人差別問題に切り込もうとチャレンジしたもののチキってなあなあになったのかな、みたいな経緯を想像しなくもない…)

日清はずっと話題になるような面白い広告を発信し続けていて、どうやって思いついているのか、広告を出すまでにどれほどの苦労があったのかと尊敬の念を抱かずにはいられない(個人的にはラッセンかき揚げやマンションポエムのキャンペーンはめちゃくちゃ好みです)。だからこそそんな日清が「大坂なおみを支持します」と表明してくれたらものすごくかっこいいのに…
普段おちゃらけてる人が大事なところで真剣になったら、「わかってるヤツ」になって信頼できるんだけど、大事なところでもふざけてると「ただのふざけてるヤツ」にしかならないわけで、ぜひ広告のリーディングカンパニーになってほしいなと勝手に思った次第でした。